みらいへのバトン Vol.1 「地元に愛される老舗豆腐屋さんの真摯な味と心意気をいただきます」

文右衛門蔵を通して、食の識者がつないできた「あの人のおもてなしバトン」。今号からは「みらいへのバトン」として、次の世代に伝えつなげる『おいしいと嬉しい』をお届けする。 第一弾は、東京・世田谷区の二子玉川から。

再開発で商業施設や高層マンションが駅前を賑わす一方で、江戸時代には渡し船(二子の渡し)で行商や農民をお江戸と結んだ多摩川や、緑豊かな丘陵地があり、昔からの商店街も残る。「ふたこ」や「にこたま」と呼ばれ多くの人に親しまれる街だ。 周囲にまだ何もなく、大井町線(当時は目黒蒲田電鉄二子玉川線)が見通せたという昭和元年に創業した「須田豆腐店」さんの手作り豆腐に魅せられた地元住民の市原尚子さんと小林結花さん。 須田豆腐店さんの伝統の味をもちいて、市原さんが家でも楽しむ料理とは?そして二人が夢を描き奮闘中の、ふたこの未来につなぐオトナの味とは?

プロフィール
市原尚子さん(右)
小林結花さん(左)

株式会社 ふたこ麦麦公社 代表&副代表
子供達が地域のスポーツ少年団サッカー部に入部したことをきっかけに知り合う。2014年夏、サッカー部コーチが地域コミュニティの場「フタコのへや」を開設。オープニングイベント[住民の夢を実現〜絵に描いた餅を食べられる餅に]で『ふたこエールでふたこの街にエールを送ろう』をテーマに地消地産のローカルビールについてプレゼンをする。これを機に二子玉川の地ビール実現に向けて日々奮闘中。

二代目の朗らかな笑顔に
会いに来る人も

代々の想いをつなぎ 三代が誇る味

息子同士が二子玉川の小学校の同級生で、所属している地元少年サッカーを通じて交流が深まった市原尚子さんと小林結花さん。
互いに陶芸が大好きで、意気投合。姉妹のように仲良く、しょっちゅういろいろな陶芸イベントや展覧会を観に行く仲という。
 そんな二人が、地元商店街の中で欠かせない存在だと口を揃えて言うのが昭和元年創業の須田豆腐店さん。現在は三代目の保広さんが豆腐作りを継ぎ、二代目の広光さんはお昼寝をはさみながら接客。
「豆腐は大豆が命。昔から信頼をおく農家さんの大豆を仕入れ、油も最上級のものを使うんです」と広光さん。
豆乳づくりは早朝4時過ぎから始まる。豆乳を商品にしたのは二代目から。それまでは豆乳を飲む発想はなかったという。三代目は揚げ出し豆腐と寄せ豆腐をリストに加えた。
「朝の通勤通学時に、ここの豆乳を飲みながら歩いている人たちの姿は、二子玉川商店街の朝を象徴する風景といえますよ」と市原さん。そう話している時にも「今朝来られなかったけど、豆乳が残ってないかなあと思って」と常連さんが覗く。
臭みがなく大豆の甘味がしっかり味わえるのが人気の理由のようだ。
揚げ出し豆腐は油がさらっとしていてもたれない。これがお目当ての客は売り切れと聞き、残念そうに店を出た。

二子玉川小学校(当時は京西尋常小学校二子玉川分教場)の二期生という広光さんは、数年前に母校からの依頼で「お豆腐」についてレクチャーもしたそうで、奇しくも市原さんと小林さんの息子たちの学年だったとこの取材中に発覚。
子供の頃よくお豆腐買いにおつかいに行かされたと、買いに来る側も家族代々というケースは少なくない。
「この辺は様変わりだけれど、昔から慕ってくれる人がいて嬉しいですね」。そう話す広光さんの朗らかな笑顔に会いに来る人も多いのだろう。妥協せずいい素材で、丁寧に仕事をする。
ふたこ住民にとって、おふくろの味ならぬ、おやじの味は大事な存在になっている。

都会にも残る伝統の味

さて、市原さんと小林さんが披露してくれるのは、須田豆腐店で大人気の豆乳を使って汲み上げ湯葉と豚肉豆乳鍋。
土鍋に入れた豆乳が温まってできた膜を上手に箸ですくい上げる。立派な湯葉だ。濃厚な豆乳だからこその甘み。だいだいポン酢の爽やかさがいい塩梅に絡み、なんとも上品な味わいだ。
湯葉がこうしてできることを知らない子どもたちも多く、夕食のちょっとしたイベントになるとか。
「丁寧に作る須田さんの豆乳だからここまで美味しいんだと思いますね」。
汲み上げ湯葉を満喫したら、豆乳を足して、豆腐と豚肉と野菜をいれて豆乳鍋のお楽しみへと続く。

「ふたこには大蔵大根という名物大根もあるんですよ」と鍋にスライスした大根を入れながら、小林さん。
江戸時代に、今の杉並区にあたる農家から伝わったのが始まりで、青首大根の登場に衰退しかけるも世田谷区の農家が地場野菜として復活させ、今は店頭に出るとすぐになくなるという。
くびれがなく、太く長い見事な姿と、煮くずれしないのも特徴だ。
この大根を差し入れてくれた香取葉子さんは、小林さんの陶芸の先生でもあり、ご主人が40歳を過ぎて継いだ農家を手伝っている。その昔「綿屋」の屋号を持っていたというから地元での歴史が長い。
大蔵大根は世田谷の学校給食にもとり入れられ、小さい頃から親しみのある伝統野菜になっているそうだ。
小林さんが作った大蔵大根の出汁しょうゆ漬けが、豆乳鍋の箸休めにちょうどよい。

温まった豆乳の膜をすくい上げ、
だいだいポン酢を垂らす

千切りにした大蔵大根にチャービルなどを混ぜて。こちらもちょうどよい箸休め

ビールと再仕込しょうゆで
煮込んだ肩ロース

豚肉豆乳鍋の作り方(2人分)

【材料】
・豚バラ肉:200グラム
・豆腐:1丁
・水菜:適量
・大根(今回は大蔵大根):適量
・豆乳:3カップ
・出汁しょうゆ:適量

【作り方】
①豆乳に出汁しょうゆを入れて温める
②豚肉を入れる
③豆腐、野菜類を入れる
④火が通ったらOK

「ふたこエールでふたこの街にエールを送ろう」

二人には夢がある。ふたこのクラフトビールを作ること。
仕事帰り、夕食準備前の束の間、友人たちと地元で一杯さくっと飲んでお疲れ様をする定例の『夕暮れ女子会』で、いつも口にするのは「二子玉川に地ビールがあったらいいよねえ」。

ある日、二子玉川商店街にある『フタコのへや』の佐藤正一さんからお声がかかった。
フタコのへやとは、実現させたいネタを持っている人と街とのオープンなハブ的拠点。
この商店街で子供向け雑貨店を開いていた佐藤さんが、「自然と最先端、お年寄りと若者、新旧みたいな相反するものが内包された街なので、ここから何かが生まれたら面白いし、二子玉川の100年後につながったら嬉しい」と2014年夏に立ち上げた『地元の部室』みたいな場だ。 誰でもいつでもプレゼンテーションができる場であるために、「オープンイベントで、なにかプレゼンをしてよ」と誘われた二人。
息子たちのサッカーコーチでもある佐藤さんからお呼びがかかったら断れない。おばちゃんの賑やかし程度ならと、地ビールネタを軽い気持ちで披露した。

ところがフタコのへやの謳い文句は [住民の夢を実現〜絵に描いた餅を食べられる餅に]。
そもそも作り方は?機械は?かかる費用は?調べていくうちに事業プランを立てて「株式会社 ふたこ麦麦公社」としてすっかり歩み始めることになってしまった。
「器好きで器探しに二人で出かけていたのが、今はクラフトビール研究のための飲み歩きに変わっちゃいました」と顔を見合わせながら笑う。
都内の醸造所を借りて、半年で試作の第一弾「ふたこエール」をお披露目。理想の味とはいかなかったが、俄然やる気がでてきたようだ。
ふたこの地ビールであるために、麦も地元でと探していたら、ホップも麦も作っているという人に出会った。
プレゼンするとは発声すること。声を出したら縁が繋がっていく面白さを感じずにはおれない。
昭和元年に創業した須田豆腐店さんと同じく、ふたこに100年後も残るオトナの味を実現するために、市原さんと小林さんは今日も追究と称した一杯を飲んで、未来の姿に乾杯する。

フタコのへやは、
地元が賑わうきっかけを創作する場

ふたこエールは麦にひっかけて
バクがシンボル

二子玉川を愛する仲間たち

地元の生き字引的存在、
須田豆腐店の二代目 須田広光さん

*須田豆腐店
東京都世田谷区玉川3-23-25
ビーンズ二子玉川 1F
TEL:03-3700-5035

少年団サッカー部のコーチや商店街、地元の活性化に携わる「フタコのへや」の佐藤正一さん

地元の伝統野菜を作る
香取農園の香取葉子さん

文右衛門蔵はいかがでしたか?

小林さん「料理好きな夫が、『再仕込みを使うと煮物の味がビシッと決まる』とすっかりファンになっています。今回は肩ロースのビール煮に合わせてみました」。

市原さん「私はだし好きなので、この出汁しょうゆは味のバランスが良くてとっても気に入りました。だいだいポン酢もだいだいが効いていてあっという間に空っぽになっちゃいましたね(笑)」。

みらいへのバトン トップページへ

Facebookページに「いいね!」して、おいしいバトンの最新情報を受け取りましょう!